
壁にかけたボードめがけて矢(ダーツ)を投げる。
すごくシンプルで、年齢を問わず誰でも手軽に楽しめるダーツ。家庭で楽しんだり、バーでお酒を飲みながら遊んだりといった印象が強いが、実はダーツは世界各地で大会が開かれている国際的な“スポーツ”だ。
「ダーツの試合に出ると日常ではありえない強い緊張感を感じます。私、自分が緊張してるのがわかるとなんだかちょっと楽しくなってくるんですよ(笑)」と言うのはダーツプレイヤーの大内麻由美さん(26歳)。
昨年オーストラリアで開催され、数十か国の国が参加したダーツの第15回ワールドカップ(2年ごとに開催)に日本代表として出場し、女子シングルで見事3位になった。ワールドカップ3位は男子を含めて個人では日本初の快挙。
「3位になった試合は、もう1回やれと言われてもちょっとできませんね。それぐらい劇的だったんです。ずっと負け越していて、次、相手に取られたら終わってしまうというところまでいって。そのとき、別の試合から日本の応援の人が戻ってきてくれたのですが、それが息を吹き返すきっかけになりました。なんとかタイに持ち込んで、最後のゲームを迎えたんです」

ダーツの対戦方法にはいろいろな種類があるが、ワールドカップなどの公式競技で行われるのは501(ファイブ・オー・ワン)。
プレイヤーは最初に501点の持ち点を持つ。交互に1回3投ずつ投げて、ヒットした数字を引いていき、相手より先にぴったり0点にすれば勝ち。残りの点数よりも大きい点数にヒットしてしまった場合は、そのラウンドの最初の点数に戻ってしまう。また、最後にゼロ点にするダーツは必ずダブル(一番外側にある輪)に入れなければならない。
「最後のゲームのとき、相手にすごくいい数字が残りました。これはとても外さないだろうなと思っていたら、ミスしてくれたんです。私の番になり、私も最初の1本を失敗して、逆転するにはかなり厳しいエリアに残りの2本を当てなければなりませんでしたが、祈りながら投げたら入ってくれたんです。本当に強運だったと思います。あの試合については、数字がどんなふうになっていったか全部覚えているくらい印象に残っています」

お父さんはやはりダーツのトッププレイヤーとして昔から活躍している大内政民さん。幼い頃からダーツが身近にあった麻由美さんだが、本格的にダーツをはじめたのはわずか4年ほど前のことだ。実家の横須賀でお父さんが経営する店「cafe & bar Ah!」を手伝うようになったのがきっかけ。お店には3台のダーツ台が設置されている。
「お店を手伝う以上は普通の人よりダーツがうまくなければいけないかなと思ってやりだしたのです。そういえば、そのとき調理師免許も取ったんですよ(笑)。もちろん、それまでにもちょっとはダーツにさわっていましたが、父も選手になれとは言わなかったし、本気ではやっていませんでした。ただ、父をはじめ上手な人が周りにいて、人に教えたりするのをよく見ていたので、目と耳は普通の人より肥えていたかもしれないですね」
本格的に始めてからほどなく東京ダーツ選手権大会で優勝。その後もさまざまな大会で上位の成績を残し、一気にダーツ界の注目を集めた。
「かなり強運でした。まわりからうまくおだてられて、それに乗せられたところもありますね」
現在はPUMA DARTS JAPANのスポンサー選手。昨年から同社が販売している「大内麻由美モデル」のダーツは人気商品となっている。

今でも試合やダーツ関係の仕事がない平日の日の夜はたいていお店にいるという麻由美さん。それを目当てのダーツファンもお客さんに多いのでは……。
「どうも噂によると、ダーツをやっている人の中には、父や父のパートナーで海外のトップの人とも渡り合う上総昌記さんがいる店ということで、かえって萎縮される人が多いらしくて(笑)。そんなこと気にしないで、もっと気軽に遊びに来ていただけたらと思っているんですけれど。でも、皆さん想像と違ってびっくりされるかもしれません。どれだけ“ダーツダーツ”してるかと思ったら、普通のお店だから」
近年、エレクトリック・ダーツ(ダーツの先端をプラスチックにし、得点を自動的に計算してくれる機械式ボードを使用する。ソフトダーツ)の普及もあり、お酒と一緒にダーツを楽しめるダーツ・バーが増えてきた。
「でも、やってみたいと思っても、取っかかりがないと入りずらいという人もまだ多いと思うんですよ。また、入ってもどうしていいかわからなかったり。でも、ダーツをやっている人はみんな、もっとたくさんの人にダーツの魅力を知ってほしいと思っています。だから気軽に声をかけてほしいですね。すごく楽しいし、すぐ仲間になれます。お店だったらどこでも絶対に親切に教えてくれますよ」
昨年、ワールドカップの後で開催されたソフトダーツの大会で、“国内レディース最強トーナメント”といわれる「Suvivor」でも麻由美さんはすさまじい激闘を制して優勝した(その戦いの模様はDVDに収録され、一般販売もされている)。また、大きな世界大会のひとつで、今年6月にシカゴ大会が開催されるBULLSHOOTERの日本代表を決める大会にも優勝。代表権を獲得した。
「今年はマレーシアでアジアパシフィックカップが開催されます。ワールドカップとアジアパシフィックカップは1年おきに開催されますが、このふたつの大会には日本代表としてずっと出場し続けるのが目標です。代表権をとるにはJSFD(JAPAN SPORTS FEDERASION OF DARTS)というハードダーツの団体が公認している大会でポイントを稼いで、女子は上位2人までに入らないといけないんです」
現在、麻由美さんのJSFDのランキングは1位。順調だ。
「いえいえ、決して楽な感じではありません。強い人はいっぱいいるので、もっとがんばらないと」
アジアパシフィックカップの代表が決まるのは7月。大会は秋の開催だ。

「ダーツはイギリスのパブで発展したことから、お酒やたばこがつきものという印象が強くあり、スポーツとしてはなかなか認めてもらえないところがありました。でも、去年、発祥地のイギリスで初めてダーツがスポーツとして認定されたんです。次の次のオリンピックはロンドンが開催地なので、ダーツを正式競技にしようという運動が推し進められているんですよ」
ダーツがオリンピック競技となって、麻由美さんのような日本選手が活躍すれば、トリノ・オリンピックで一躍ブームとなったカーリング並みの人気になることも予想される。
「すごく期待しているんです。もしも本当にオリンピック競技になったら、絶対に代表に選ばれるようになりたいですね」
大内麻由美さんの本拠地。ふだんの練習場所もお店が中心。
cafe & bar Ah!
神奈川県横須賀市大滝町1-25
TEL/FAX 046-827-4418
http://www.geocities.jp/ah_nomiya/top.html
PUMA DARTS JAPANが発売している「大内麻由美モデル」。細かいところまで麻由美さんが注文をつけた。手作業でつくられるので大量生産ができない。
お問い合わせ:PUMA DARTS JAPAN
東京都新宿区歌舞伎町1-14-6 第21東京ビル9F
TEL/FAX 03-5272-6150
http://www.pumadarts.jp/